−レッツ☆ウォー− 


しせん☆戦争(2008.4.6)

 昼休み、教室から友人である源氏と外を見ていた。始めはどうでもいいゲームとかドラマの話だったのだが、校庭でバレーボールなんてやっている俺の幼馴染み・双葉を見付けてから、源氏は双葉について喋りっ放しになった。
 我が友は飽きもせずに喋り続けるし、じっと見つめている。俺はぼけっと空を見ていた。そこで源氏が言ったのだ。自分はいつか視線で双葉を振り向かせるのだ、と。あんまり馬鹿なことを言うから「なら今やってみろよ」とうっかり答えてしまった。
 源氏は本気でやり始めた。呼んで振り向かせるのは禁止。ただただ目で訴え続ける。だが、そう簡単に人は視線を感じやしない。五分経っても暑苦しい源氏の視線に双葉が振り返ることはなかった。
 根気が切れたのか、盛大な溜め息と共に友は崩れ落ちる。窓枠に顔を伏せた源氏を横目に、俺は空へと笑った。ストーカーの視線も感じないくらい俺の幼馴染みは鈍感なんだ。
「ば〜か。お前なんかが見てたって気付きゃしないさ」
「なにおうっ!? 俺じゃ無理だって言うのかっ!? お前だって無理だろうがっ!」
「……いいぜ? 試してみるか?」
 根拠のない虚勢だった。俺もたまに馬鹿なことをする。周りの目をほとんど感じない双葉だけど、割合目が合うことは多い。源氏に無理だと言われたのが何となく悔しくて、つい売られた喧嘩を買っていた。
 一つに束ねられた髪が、幼馴染みの背で波打つように踊る。見慣れていても双葉を眺めるのに退屈することなんてない。ただ、源氏が真横からじっと見てくるのは鬱陶しかった。何気なく見ている風を装って、内心では「こっちを見ろ」と強く念じる。
 勢いが付きすぎたのか、ボールが校庭に落ちて弾んだ。追ってきたのは双葉だ。ボールを拾い上げ、双葉はふと目を上げる。そのまま、釣られるようにしてこっちを見た。そう、賑やかな昼休みの風景から、あいつはあっさり俺を見付ける。
 横で「偶然だ!」と源氏が騒いだ。だが、それを無視して俺は双葉を呼ぶ。無論、声には出さない。少女は目を逸らすと仲間の輪に戻り、ボールを預けた。
 数分後、我等が姫君は教室に駆け戻ってきた。薄く笑い「どうした?」と言う俺に、「呼んでたしょ?」と満面の笑みが返ってくる。
 ……馬鹿な奴だ、源氏。双葉はな、俺にはちゃんと応えてくれるんだよ。

☆ 本日の試合結果。しせん(壱哉)勝利。


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